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鼠径ヘルニアの手術方法。腹腔鏡手術と鼠径部切開法の違いと選び方

鼠径ヘルニアの手術が必要と言われて調べ始めると、鼠径部切開法、腹腔鏡、メッシュ、と聞き慣れない言葉が次々に出てきます。どの方法がよいのか、自分で選べるものなのか、選ぶとしたら何を基準にすればよいのか。この記事では、鼠径ヘルニアの手術方法を患者の立場から整理します。

先に全体像を示すと、現在の標準はどの方法でも「弱くなったすき間を医療用のメッシュで塞ぐ」点は共通で、違いは「そこへどうたどり着くか」です。足の付け根を切って直接向かうのが鼠径部切開法、お腹の中からカメラで見ながら向かうのが腹腔鏡下手術です。

医師が2つの術式の違いを模式図で説明する様子

目次

すべての土台。メッシュ法とは何か

鼠径ヘルニアは、筋膜のすき間から腹膜ごと腸などが飛び出す病気です。手術の目的は、飛び出した腸をお腹に戻し、すき間を塞いで再発を防ぐこと。この「塞ぎ方」が時代とともに変わってきました。

かつては周囲の組織を糸で縫い縮める方法が主流でしたが、組織を引っ張って寄せるため突っ張り感が強く、再発率も高いことが課題でした。現在は、ポリプロピレンなどでできた網目状の医療用メッシュを弱い部分に当て、面全体で補強する方法が標準です。緊張をかけずに塞げるため痛みが少なく、再発は大きく減ったとされています。

メッシュは体内に残り続けますが、長年の使用実績がある医療材料です。時間とともに周囲の組織と一体化して補強壁になります。

メッシュを使わない手術はもうないのか

小児の手術ではメッシュを使いません。子どもの鼠径ヘルニアは組織のゆるみではなく生まれつきの通り道が原因なので、袋を閉じるだけで治るためです。成人でも、感染リスクが高い状況などでメッシュを避ける判断はあり得ますが、標準はメッシュ法です。成人と小児の違いは鼠径ヘルニアとは何かの記事で解説しています。

鼠径部切開法。足の付け根から直接治す

足の付け根を4〜6センチほど切開し、ヘルニアの出口に直接メッシュを当てる方法です。前方アプローチとも呼ばれ、リヒテンシュタイン法などいくつかの型があります。

切開法の利点

  • 局所麻酔や下半身麻酔でも行えるため、全身麻酔が不安な方や心臓・肺に持病がある方でも受けやすい
  • お腹の中に入らないので、開腹手術の既往があり癒着が心配な方にも選びやすい
  • 日帰り手術との相性がよく、実績の蓄積が厚い

切開法の注意点

  • 傷が腹腔鏡よりやや大きく、足の付け根に残る
  • 左右両方にヘルニアがある場合は、両側それぞれの切開が必要になる

腹腔鏡下手術。お腹の内側から治す

腹腔鏡下手術ではモニターを見ながらお腹の内側からメッシュを当てる

お腹に5〜10ミリ程度の小さな穴を1~数か所開け、カメラ(腹腔鏡)の映像を見ながら、お腹の内側からメッシュを当てる方法です。TAPP法とTEP法という2つの型があり、どちらも内側から出口を面で塞ぐ考え方は同じです。

腹腔鏡の利点

  • 傷が小さく目立ちにくい。術後の痛みが軽い傾向がある
  • 左右両側を同じ傷から一度に治療できる
  • TAPPの場合反対側に隠れたヘルニアがあれば、その場で見つけて同時に治療できる
  • 再発例で前回と違う経路から治療できる

腹腔鏡の注意点

  • 全身麻酔が必須になる
  • お腹の中の手術歴によっては癒着のため難しいことがある
  • 費用が切開法よりやや高い。金額の目安は手術費用と高額療養費制度を参照してください

どちらを選ぶか。判断の考え方

自分の条件に合う術式を医師と相談して選ぶ

どちらの術式も、適切に行われれば治療成績に大きな差はないとされています。だからこそ、選択は「病気の状態」と「あなたの生活と体の条件」の掛け合わせで決まります。

条件 向きやすい術式
全身麻酔を避けたい。心臓や肺の持病がある 鼠径部切開法
下腹部の手術歴がある(前立腺など) 鼠径部切開法が選ばれることが多い
両側にヘルニアがある。反対側も心配 腹腔鏡下手術
傷を目立たせたくない。痛みを最小限にしたい 腹腔鏡下手術
切開法後の再発 腹腔鏡下手術

大切なのは、片方の術式しか扱わない医療機関では、この比較検討が最初から起こらないという点です。自分の条件に合わせて選ぶには、両方に対応している医療機関で診断を受けるのが前提になります。名古屋での医療機関の選び方は日帰り手術の受け方の記事で解説しています。

前立腺癌術後の症例については、TEPやロボット手術でも行っている施設はありますので、受診した病院で相談されるといいと思います。再発症例についても、初発の術式によって、腹腔鏡手術、ロボット手術、鼠径部切開法いずれも選択肢となり得ます。高齢者の方でも全身麻酔が可能であれば十分日帰り手術も選択肢となります。

手術時間と体への負担

どちらの術式も、手術時間はおおむね30分から1.5時間程度です。鼠径部切開法、腹腔鏡とも麻酔と回復管理の設計によって日帰りまたは1泊で行う医療機関が増えています。

術後の回復は腹腔鏡のほうがやや早い傾向がありますが、鼠径部切開法でもデスクワークなら数日で復帰できるのが一般的です。術後の生活の目安は術式共通の部分が多いため、回復の進み方は術後の過ごし方の記事で詳しく整理しています。

腹腔鏡の2つの型。TAPP法とTEP法

腹腔鏡下手術を調べていくと出てくるのが、TAPP法とTEP法という2つの型です。患者側の体験はほとんど同じですが、知っておくと医師の説明が理解しやすくなります。

TAPP法(経腹的腹膜前修復法)

お腹の中にカメラを入れ、腹膜という内側の膜を一度開けてメッシュを敷き、閉じ直す方法です。お腹の中全体を見渡せるため、反対側の隠れたヘルニアや他の異常を確認できるのが強みです。国内で広く行われている型です。またヘルニア嚢に腸や脂肪が嵌ったままになっていた場合もお腹の中から見ることができるため、手術に大きな支障がないことが多いです。

TEP法(腹膜外修復法)

腹膜を破らず、腹壁と腹膜の間のスペースだけを剥がしてメッシュを敷く方法です。お腹の中に入らないため腸に触れるリスクが小さい一方、操作スペースが狭く、高い技術を要します。お腹の手術後の癒着に左右されないという利点があります。

どちらが優れているかは一概に言えず、執刀医が習熟している型で受けるのが最も安全です。「TAPPとTEPのどちらですか」と聞いてみて、理由まで説明してくれるかどうかは、医師の説明力を測る良い質問になります。

メッシュの安全性をもう少し詳しく

メッシュに不安を持つ方のために、よく聞かれる点を掘り下げます。

慢性疼痛について

術後3か月を超えて痛みが続く状態を慢性疼痛と呼び、鼠径ヘルニア手術の合併症として国際的に注目されてきました。頻度は報告により幅がありますが、生活に支障するレベルは数パーセント以下とされ、神経の走行を意識した手術手技の進歩で減少傾向にあります。万一続く場合も、薬物療法などの対処法があります。

感染・異物反応について

メッシュ感染はまれですが、起きた場合は抗菌薬治療や、場合によってはメッシュ除去が必要になることがあります。喫煙や糖尿病のコントロール不良は感染リスクを上げるため、術前の禁煙と血糖管理はここでも意味を持ちます。

MRI・空港の検査への影響

メッシュは樹脂製で金属ではないため、MRI検査も空港の金属探知機も問題ありません。

執刀医に聞くべき質問リスト

術式の説明を受けるとき、次の質問を用意していくと、納得して選べます。

  • 私の場合、どの術式を勧めますか。その理由は何ですか
  • 先生ご自身は年間何件くらい執刀していますか
  • 反対側にもヘルニアがある可能性はありますか
  • この術式で再発した場合、次はどう治療しますか
  • 日帰りで受けられますか。受けられない場合の理由は何ですか

これらに具体的に答えてくれる医師なら、術式がどちらであっても信頼して任せられるはずです。費用面の比較は手術費用の記事を参考にしてください。

よくある質問

術式は患者が希望して選べますか

希望は伝えられますし、伝えるべきです。ただし最終的には、ヘルニアの状態、麻酔のリスク、手術歴を踏まえた医学的判断、それぞれの医療機関で得意とする手術方法との擦り合わせになります。「なぜ自分にはこの術式なのか」の説明に納得できるかが、医療機関を見極めるポイントです。

メッシュが体に残るのが不安です

メッシュは世界中で長年使われてきた医療材料で、時間とともに組織と一体化します。異物感が残る頻度は低く、メッシュを使わない縫合法より再発が大きく減ることが、標準治療とされている理由です。金属探知機に反応することもありません。

ロボット手術はありますか

2026年6月より鼠径ヘルニアに対するロボット支援手術が保険収載され、導入する施設も出てきています。腹腔鏡と比べた明確な優位性はまだ確立していません。

再発したらどうなりますか

メッシュ法の再発率は低いものの、ゼロではありません。再発した場合は、前回と別の経路から治療するのが原則で、切開法後の再発なら腹腔鏡で、といった形になります。再発時こそ、両術式に対応する医療機関の価値が出ます。

手術時間はどちらの術式が短いですか

おおむねどちらも30分から1.5時間で、大きな差はありません。時間の長短より、自分の条件に合っているかで選ぶべきです。

両側同時手術は体への負担が大きくないですか

腹腔鏡なら同じ創から両側を治療でき、2回に分けるより通算の負担・費用・休みが少なく済むことが多いです。全身状態によって判断は変わるため、診察でご相談ください。

昔に縫合法で手術した部分が再発しました。またメッシュなしですか

いいえ。再発例の標準もメッシュ法です。前回と別の経路(切開法後なら腹腔鏡)で、癒着のない面からメッシュを当てるのが原則です。

まとめ

鼠径ヘルニアの手術は、メッシュですき間を塞ぐ点はどの方法も同じで、足の付け根から向かう鼠径部切開法と、お腹の内側から向かう腹腔鏡の2つが標準です。また、2026年6月よりロボット手術も保険適応となりました。麻酔の条件、手術歴、両側かどうか、傷や痛みへの希望で向き不向きが変わります。

受診した医療機関で、ぜひ自分に合った術式を相談してみてください。

この記事の監修者

明石 久美子医師(外科専門医/消化器外科専門医)

岐阜大学出身。これまで大垣市民病院、名古屋掖済会病院、名古屋大学などで消化器外科診療に従事し、現在は鼠径ヘルニアを専門に診療。これまでに約500件の鼠径ヘルニア手術に携わる。

保有資格:医学博士、日本外科学会専門医、日本消化器外科学会専門医、消化器がん外科治療認定医、日本ヘルニア学会鼠径部ヘルニア修得医、がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会 修了、麻酔科標榜医

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